J.K.ローリング作 松岡佑子訳『ハリー・ポッターと賢者の石』

静山社ペガサス文庫 J.K.ローリング 作 松岡佑子 訳『ハリー・ポッターと賢者の石』

【メモ】

・さすがは、全世界で4億5千万部以上も売れた大人気小説の第一作目、子どものみならず、大人でもとても楽しく読める内容でした。お時間とれるようであれば、「親子で読書」もいいかと思います。

・総ルビで、小学校低学年からでも読めるようになっています。小学校1年生(当時)の長男が、まるで本に引き込まれるかのように、あっというまにシリーズ全作を読破してしまいました。

 

【本文書き出し】

”第<1>章 生き残った男の子

プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私どもはどこから見てもまともな人間です」というのが自慢だった。不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。

ダーズリー氏は、穴あけドリルを製造しているグラニングズ社の社長だ。ずんぐりと肉づきがよい体型のせいで、首がほとんどない。そのかわり、巨大な口ひげが目立っていた。奥さんのほうはやせて、金髪で、なんと首の長さが普通の人の二倍はある。垣根越しにご近所の様子を詮索するのが趣味だったので、鶴のような首は実に便利だった。ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。どこを探したってこんなにできのいい子はいやしない、というのが二人の親ばかの意見だった。

そんな絵に描いたような満ち足りたダーズリー家にも、たった一つ秘密があった。何より怖いのは、誰かにその秘密をかぎつけられることだった。

−−−あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら、いっかんの終わりだ。

ポッター夫人はダーズリー夫人の実の妹だが、二人はこの数年、一度もあってはいなかった。それどころか、ダーズリー夫人は妹などいないというふりをしていた。何しろ、妹もそのろくでなしの夫も、ダーズリー家の家風とはまるっきり正反対だったからだ。

−−−ポッター一家がふいにこのあたりに現れたら、ご近所の人が何と言うか、考えただけでも身の毛がよだつ。

ポッター家にも小さな男の子がいることを、ダーズリー夫妻は知ってはいたが、ただの一度も会ったことがない…”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 表表紙_[0]静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 本文1静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 本文2

静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 本文3静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 本文4静山社ペガサス文庫 ハリー・ポッターと賢者の石1-1 本文5

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビ(全ての漢字にふりがなが振られています)

文字の大きさ:小さい、大人向け文庫とほぼ同等サイズ

読んだ人(当時):小学校1年生・月齢7歳3ヶ月・本好き

所感:「ハリー・ポッターが好き」な「本好き」という条件はあるが、全ての漢字にふりがなが振られており、内容的にも、小学校1年生でも十分に読めるレベル。続編シリーズまで含めて、引き込まれるように楽しそうに読んでいました。

 

【基本データ】

静山社ペガサス文庫

2014年3月4日 初版発行

J.K.ローリング 作 松岡佑子 訳『ハリー・ポッターと賢者の石 1-1』

ISBN978-4-86389-230-9

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マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』

早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』表紙_[0]

【メモ】

・この世界はとても複雑である。色々なものが絡みあって、何と何が誰の責任で運営されているのか、表面上みえているものと、本質的なものは全く異なる。

・私自身、直感的に感じている身近な色々な事柄についてひとつづつ考えてみると、ほとんどすべてのものについて、自分自身が感じていることはそれらの事実・実際の姿を的確に反映していないことにすぐに気がつく。

・われわれは常に道徳的な難問の前に葛藤している。掘り下げると、どんな瑣末なことであってもそうである様に思えてならない。

・「正義」について考えるための三つの観点、「福祉」「自由」「美徳」。

・「正義」とは一体何なのか。それを規定するものがいったいどこにあるのか。「正義をめぐる古代の理論は美徳から出発し、近現代の理論は自由から出発すると言えるかもしれない」。そうなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。大切なことは、その考え方にいろいろな視点があるということをしっかりと理解して臨むことであり、どの視点を自分が選択するのか、そこからどういった結論を導くのかすらも、各自の責任の範疇だという意識を持つことなのかもしれない。

・アメリカのビジネス書などによくみられる、多くのケーススタディを用いて、ものごとを測るための考え方、取り巻く環境、視点などをわかりやすく浮き彫りにしていく。理解するのはさほど難しくはないが、判断したり結論を出したりするのは著しく難しい哲学の「題材」を、一冊の本を通して議論し続ける。

・面白い。何度読み返しても、色々な面で得るものがある。「正義に関する自分自身の見解を批判的に検討してはどうだろう—そして、自分が何を考え、またなぜそう考えるのかを見きわめてはどうだろうと」。

 

【本文書き出し】

”第1章

正しいことをする

二〇〇四年夏、メキシコ湾で発生したハリケーン・チャーリーは、猛烈な勢いを保ったままフロリダを横切って大西洋へ抜けた。二二人の命が奪われ、一一〇億ドルの被害が生じた。チャーリーは通過したあとに便乗値上げをめぐる論争まで残していった。

オーランドのあるガソリンスタンドでは、一袋二ドルの氷が一〇ドルで売られていた。八月の半ばだというのに電気が止まって冷蔵庫やエアコンが使えなかったため、多くの人びとは言い値で買うより仕方がなかった。木々が吹き倒されたせいで、チェーンソーや屋根修理の需要が増加した。家の屋根から二本の木を取り除くだけで、業者はなんと二万三〇〇〇ドルを要求した。小型の家庭用発電機を通常は二五〇ドルで売っている店が、ここぞとばかりに二〇〇〇ドルの値札をつけていた。老齢の夫と障害を持つ娘を連れて避難した七七歳の婦人は、いつもなら一晩四〇ドルのモーテルで一六〇ドルを請求された。

多くのフロリダ住民が物価の高騰に憤りを隠さなかった。『USAトゥデイ』紙には「嵐の後でハゲタカがやってきた」という見出しが踊った。ある住民は、屋根から倒木一本をどかすのに一万五〇〇〇ドルかかると言われ、「他人の苦境や不幸を儲けの種にしようとする」連中は間違っていると語った。フロリダ州司法長官チャーリー・クライストも同じ意見で、「ハリケーンの後で困っている人の弱みにつけこもうとする人間の欲深さには、驚きを禁じえない」と述べた…”

”ところが、クライストが便乗値上げ禁止法を執行したときでさえ、一部の経済学者はその法律や一般市民の怒りは見当違いだと論じていた…”

”「正しい価格」といったものは存在しないというのだ。

自由市場を信奉する経済学者のトーマス・ソーウェルは、便乗値上げというのは「感情には強く訴えるかもしれないが経済的には意味のない表現で、ほとんどの経済学者がなんの注意も払わない。曖昧すぎてわざわざ頭を悩ませるまでもないからだ」と述べた。ソーウェルは『タンパ・トリビューン』紙上で「『便乗値上げ』のおかげでフロリダの住民がどれだけ助かるか」を説明しようとした。ソーウェルによれば、便乗値上げが批難されるのは「人びとが慣れている価格よりかなり高い場合」だという。しかし「人びとがたまたま慣れている価格レベル」が道徳的に不可侵だなどということはない。その価格は市場の条件がもたらす「別の価格とくらべて特別でもなければ『公正』でもない」のだ。それが、たとえハリケーンによって生じた条件であったとしても…”

”氷が一袋一〇ドルで売れるとなれば、製氷会社はどんどん増産して出荷するのが得策だと気づくはずだ。こうした価格になんら不正なところはないと、ソーウェルは説明した。売り手と買い手が取引する品物に置く価値を反映しているにすぎないのである…”

”ハリケーン・チャーリーが通り過ぎた後で巻き起こった便乗値上げをめぐる論争は、道徳と法律に関する難問を提起している。商品やサービスの売り手が自然災害に乗じ、市場でつく価格であればいくらでも請求することは間違っているのだろうか。だとすれば、法律はなにをすべきだろうか(できることがあるとしての話だが)。売り手と買い手が持つ取引の自由に介入することになっても、州は便乗値上げを禁止すべきなのだろうか…”

 

”福祉、自由、美徳

これらの問題は、個人がおたがいをどう扱うべきかというテーマにかかわるだけではない。法律はいかにあるべきか、社会はいかに組み立てられるべきかというテーマにもかかわっている。つまり、これは「正義」にかかわる問題なのだ。これに答えるためには、正義の意味を探求しなければならない。実は、われわれはすでにその探求を始めている。便乗値上げをめぐる論争を詳しく見てみれば、便乗値上げ禁止法への賛成論と反対論が三つの理念を中心に展開されていることがわかるだろう。つまり、福祉の最大化、自由の尊重、美徳の促進である。これらの三つの理念はそれぞれ、正義に関して異なる考え方を提示している…”

 

【本文及び冒頭5ページ】

早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』表紙_[0] 早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』本文1_[0] 早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』本文2_[0]

早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』本文3_[0] 早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』本文4_[0] 早川書房 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』本文5_[0]

 

【基本データ】

早川書房

2011年11月25日 発行

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』

ISBN978-4-15-050376-5

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リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」

幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」表紙_[0]

【メモ】

・現実世界の変人 が紡ぎ出す「名言」。それをリリー・フランキー節でひたすら綴る。

・僕の日常生活には、こんな名言を発する人との接点は無い。初めてこの本を読んだときそう思った。そして爆笑しながら最後まで一気に読みきった。でも、今読み返してみると、人間誰しもこの様な名言を日常的に耳にしたり、場合によっては口にしたりしているのではないか?そんな気もする。初めて読んだ時から早10年あまりも経っているから、その間にした様々な経験がそう思わさせるのか、それともこの10年間で僕の周りの人や僕自身が何か変わってきたのか、僕自身がどこかおかしくなったのか…。

・下らない。でも面白い。リリー・フランキー先生のファンになったきっかけの本の一冊。

・笑いたいだけではなく、自分自身という人間や人生をボンヤリと考え直したい時に、一風変わった物差し替りになる一冊かも。

 

【本文書き出し】

(16ページ〜、2つ目の御言葉より)

”〔御言葉その2〕そこに居ないはずの男。

生活の習慣というモノは、なかなか変えがたい。ボクの場合、出掛ける時も寝る時も部屋に鍵をかける習慣がないのだが、これは考えてみると、たいそう物騒なことである。

分かっちゃいるが、面倒臭い。運良く泥棒に入られたこともないが、部屋に帰ったら玄関にゴミ袋が2つ捨てられていたことがある。盗まれたことはないが、増やされたりはした。鍵はかけねばイカン。危ない。知らないうちにゴミ集積所にされてしまう。

近頃は、そんなボクの友好的な習慣を逆手に取った積極的な編集者が、電話のアポをすっ飛ばして、夜中の3時に呼鈴も鳴らさぬままボクの枕元に立っていてビックリのあまり小便をもらしまくったことも少なくない。鍵はかけねばイカン。

特にこの御時世、猟奇殺人やノックアウト強盗や巨人連敗など、物騒な事件も多い。

鍵はかけねばイカン。ウチの雑居ビルにも危険人物が出入りしているらしく、エレベーターホールに「異常者が出没しています。御注意下さい。管理人」と書いた紙が貼ってある。でも、その字がデタラメにヘタな字で、その上、悲しくなるくらいの誤字脱字で書かれてあったので、そっちのほうが怖かった。

犯人は管理人である。たぶん。それを目撃したオバサンの話では、異常者は”全身黄色人間”だったらしい。それってもしかしたら、夜中に黄色いツナギのブルース・リー・ジャージでコンビニに行くボクのことかなとも思ったが、ボクは変質者であっても異常者ではないので、犯人は管理人である。たぶん。そうに違いない。

とにかく、重要なことは鍵をかけることである。それが、一瞬の外出でも、だ。

 

ベッドの上の感動家。

友人のOは昔から、一種独特な人間を吸引する体質だった。Oが今までに出会った異常者に関する話は、想像を絶するストーリーばかりである。毎日、夕方になるとバケツの中で飼っている鮒を見せに来る中年。早朝に泣きながらチリ紙をもらいに来る中学生。

どう考えても思いつかない現実の異常。虚構では醸し出せない事実ならではのバカさ加減がそこにはある。Oはずーっとそんなキワキワの人たちから好かれてしまう、オイシくも悲しい体質なのである。

ある日。もう26時を回った頃だったという。Oは近所のコンビニへ買い物に出掛けた。そして、家に戻るまで、その間10分。Oは油断していた。鍵をかけなかったのだ。

帰って来て部屋のドアを開けたOは、その様子に背筋が凍るような衝撃を受けたという。部屋が荒らされたワケでも、物が盗まれたでもなく、10分前と違う点はただ一点。その一点があまりにも斬新な一点だった。

Oのベッドの上に、見知らぬオヤジが座っていたのである。靴のまんまで、あぐらをかき、両手を膝の上にのせて、天井を仰いでいたのだという。

Oは身構えた。咄嗟に身の危険を感じた。そりゃそうだろう。かなり怖い絵である。ベッドの上のオヤジは灰色の作業服を着ていて、腕まくりした両手は真っ黒に日焼けし、それがサロン焼けではないことをOは瞬時に察した。「殺されるかもしれない!!」、Oは恐怖に震える。しかし、オヤジは帰ってきたOを前にしても微動だにせず、天を仰いでいる。

Oは意を決して、オヤジに言った。

「アンタ!!勝手に人の部屋に入り込んで、そこで、何してるんだ!!オイ!!オイ!!」

その言葉を受けたオヤジは、初めて身体を震わせながら天に向ってこう叫んだという。

「感動してるんだア!!」

感動していたのであった。人ん家で勝手に。

それを聞いても笑える精神状態でなかったOは「そんなの、よそでやってくれ!!」とオヤジに冷たく言った。するとオヤジは「分かった・・・・・・」と言い残し、部屋を去ったという。

Oはその事を述懐するに「何に感動していたのか、超気になる」と、今では後悔をしている。

 

“御言葉”その二

「感動してるんだァ!!」

(家宅不法侵入者、男・推定50歳)

〜そこに何があったのか?永遠の謎となった感動の御言葉〜”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」表紙_[0] 幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」本文1_[0] 幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」本文2_[0]

幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」本文3_[0] 幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」本文4_[0] 幻冬舎文庫 リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」本文5_[0]

 

【基本データ】

幻冬舎文庫

平成18年2月10日 初版発行

リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」

ISBN4-344-40760-1

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