シンガー・作 橘高弓枝・訳『小説版 美女と野獣』

【メモ】

・文中に出てくる表現は比較的難しい。「みちたりた」「荘厳な」「かけ離れ」「忠誠をちかう」「みすぼらしい」「お慈悲」「まばゆいばかりの」などなど。赤川次郎氏重松清氏の小説よりは、間違いなく難しい文章。小学校低学年だと、読めても、ちょっと入り込んでいけないかも。もう少し平易な表現をしてくれたほうが、お話には入り込みやすいかも。

・そういった意味では、小学校高学年(もしかすると3年生くらいからでも)、「あえて読ませる」「この本を通して、そこそこ難しい表現に触れさせる」という手はあるかも。気に入って繰り返し読めば、語彙力も向上する。

・物語後半になって、ベルと野獣、周囲の召使いたちなど、登場人物同士のやりとりや会話が中心になってくると、少し読みやすい感じになってくる。

・ストーリー的には好き。とても良いと思う。自らの冷たい心が原因で魔女に呪いをかけられ、醜い姿に成り果ててしまった野獣。父の身を思い、自ら身代わりとして野獣の城の囚われの身になることを申し出るベル。外観にとらわれずに、内面を見て野獣に接するベル。ベルと接することで、相手を思いやるということを知る野獣。ベルとベルの父親のことを思い、自らの呪いを解くことを諦め、ベルを開放する野獣。「魔法の力で王子さまと結婚」とかじゃなくて、「真実の愛」や「勇気」といったものの価値をしっかりと描いた作品。『人の真の値打ちは、外見だけでは判断できません(本文100ページ7行目)』。愛とは、相手のことを思いやる気持ちのこと。人間味あふれ、やさしく親切な、すばらしい召使いたちの姿がまた良い。子どもにぜひ読ませたい。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビで、すべての漢字にふりがなが振られています。

文字の大きさ:比較的大きい。

所感:本当に素晴らしい内容。ディズニーだから良いとか良くないとかではなく、子どもに読ませたい一冊。名作だと思います。

 

【表紙、冒頭の絵本ページ及び本文冒頭3ページ】

偕成社「美女と野獣」小説・表紙_[0]偕成社「美女と野獣」小説・絵本部分3_[0]偕成社「美女と野獣」小説・絵本部分4_[0]

偕成社「美女と野獣」小説・本文1_[0] 偕成社「美女と野獣」小説・本文2_[0] 偕成社「美女と野獣」小説・本文3_[0]

※本の頭部分に、ディズニーのアニメの絵を使って作った8ページの簡易な絵本がついています。

 

【本文書き出し】

” 1 魔女の呪い

はるか昔、遠く離れた土地に、魔法のような美しい王国があった。この王国は輝かしい光にみちあふれていた。土地はゆたかな緑におおわれ、人びとはみちたりた幸せな日々を送り、森の中にそびえる城は、美しい王国のシンボルにふさわしく、堂々とした荘厳なたたずまいを見せていた。

ところが、この王国の若い王子だけは、ほかとはかけ離れ、まるで別世界の住人のようだった。

王子は、幼いころから望むものすべてを与えられて育ってきたが、心は氷のように冷たいままで、まるで温かみが感じられなかった。わがままで、身勝手で、思いやりのかけらもなかった。

それでも、少年時代の王子は、いまほどひどくはなかった。わんぱくなところはあったけれど、茶目っけのあるかわいい少年だった。

そんな愛らしい少年の心から、やさしさや思いやりがなくなったのは、なぜだろうか……”

 

【基本データ】

偕成社

1997年12月 1刷

シンガー・作 橘高弓枝・訳『美女と野獣』

ISBN978-4-03-791100-3

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小山 勝清『彦一とんちばなし』

偕成社文庫 小山 勝清「彦一とんちばなし」

【メモ】

・彦一は、どんな相手でもとんちでやり込めてしまう。

・上巻本文242ページに52話収録。一話平均4〜5ページ。簡潔で読みやすいショートストーリーの中に、とんち、だじゃれ、笑いが盛り込まれている。しかし、どの話も、それだけではなく、知識と知恵、そして道徳も絡められた物語になっている。

・悪人を懲らしめる。さらにしっかりとやり込めて、仕返しすらできないようにしてしまう。決して正義漢ぶってるわけではないけれど、本人がしたいと思うこと、本人が正しいと思うことをすると、結果として相手をやり込めてしまう。

・しかしそのとんちは、人々が忘れたりなおざりにしたりしていた、物事の本来あるべき姿、真理のようなものに気が付かせてくれる。ひとびとはバツが悪そうに納得して、ホッとして、場が収まる(P66〜第17話「◯◯さま」 ーーー 調子に乗って夜遅くまで大騒ぎする、鼻息の荒い江戸っ子の商人たち。その商人たちに、「『本当に偉い人』がお泊りなので、お静かに願います」という手紙が届く。商人たちはおとなしくなる。翌日種明かしをされた商人たちは、してやられたと思いつつも、『本当に偉い人』が誰なのかに気がつかされ、なるほどと頭をかいて引き下がる)。

・彦一はずるくない。賢くて、一部には確かにずる賢いような描写もあるが、本質的には、正義を愛する正直な男。そして、人を思いやることのできる、やさしい男(P77〜第20話「おもいやり」 ーーー 村一番の孝行者、働き者の男が、過ちから、山火事を起こしてしまう。小心者のその男は、正直に名乗り出ることができない。彦一はその男のことを考え、その男が自然と名乗り出ることができるようにとんちを働かせる)。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビではないですが、漢字の8〜9割、おそらく、小学校1年2年で習うレベルのもの以外にはほぼ全てルビが振られていると思います。

文字の大きさ:比較的小さい。通常の大人向け文庫サイズよりも若干(1〜2pt)大きい程度。

所感:

・ソフトカバーのB6判で行間も広く読みやすく、内容的にも、とんち話ですので、小学校低学年でも十分に理解できる内容です。

・一部の漢字にはルビが振られていませんが、小学校2〜3年生程度ならば十分に読める、というレベルかと思います。

・ただし、一部の言葉や地名などで少し難しいものや珍しいものがたまに出てきます(難題、療治、献上、胴巻き、球磨川、阿蘇、鶴崎、など)。これらには当然ふりがなが振られていますが、ふりがな付きでも小学校低学年だとちょっと厳しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

・逆に、いろいろな話のなかで出て来る人情の機微に触れるような人間同士のやりとり、人のこころの動きなどの面まで含めて考えると、小学校高学年どころか、おとなでも十分に楽しめる、そういった内容の本だと思います。

 

【本文書き出し】

” 第1話 こぶとり

むかし、肥後の国(いまの熊本県)の八代という町のちかくに、彦一という、それはそれは、きばつなちえをもっている子どもがすんでいました。かれは目がくるくるで、おぼんのようにまるい顔、どんな難題でも、たちどころにといて、よわきをたすけ悪人をこらし、おまけにどっとわらわせる世界一のちえ男でした。ではいまからその彦一のとんちばなしをいたしましょう。

 

あごの下に、大きなこぶをもったおじいさんがありました。そのこぶは、ほうっておいてもいのちにかかわるこぶではなかったが、しゃれもののおじいさんは、そのこぶをなおそうと、ほうぼうのおいしゃさんにかかりました。が、こぶはいっこうになおらず、くすり代がかさんで、家はだんだんまずしくなりました。しかしおじいさんは、まだあきらめきれず、このうえは、のこっている家やしきを売り払い、江戸(いまの東京)にのぼって名医にかかろうとおもいました。

これをしった、むすこの太郎兵衛は、おどろいて彦一の家にかけつけました。そして、「なんとかして、うちのじいさまに、こぶの治療をあきらめさせる法はないものか。」とそうだんしました。彦一はにっこりわらっていいました……”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

偕成社文庫「彦一とんちばなし」表紙_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文1_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文2_[0]

偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文3_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文4_[0]

 

【基本データ】

偕成社文庫

1977年5月20日 1刷

著者 小山 勝清「彦一とんちばなし(上)」

ISBN978-4-03-550400-9

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マイケル・ボンド 作  松岡 亨子 訳『くまのパディントン』

福音館文庫 マイケル・ボンド「くまのパディントン」

【メモ】

・暗黒の地ペルーから、たった一人でイギリス・ロンドンへやってきたくまのパディントン。心優しいブラウンさん一家と出会い暮らし始めたロンドンの街で、たくさんの知らないものや不慣れなことに直面し、ことあるごとにさまざまな事件を巻き起こします。しかし彼は、持ち前の一生懸命さ、真面目さを持って礼儀正しくことにあたり、周囲の人に助けられながら、最後には必ず問題を解決してしまいます(こんな堅苦しい話ではないですが、かいつまんで書くと、こういうことなのかなと……)。

・この版は、恐らく、僕(昭和40年台後半生まれ)が小学校低学年のころに読んだものと、挿絵なども含めて全く同じだと思います。利発で、お行儀がよく、かわいらしいパディントンの所作や言動、ママレードをおいしそうに食べる姿など、場面ごとの情景が目に浮かぶようで、どれも楽しく、また、懐かしく読ませてもらいました。

・最近映画になった話のストーリーブック「パディントン ムービーストーリーブック」は、この原作本とはかなり内容の異なる本です(そもそも著者がマイケル・ボンド氏ではありませんし)。やはりパディントンといえば、こちらの本しかないと、個人的には思っています。

※2017年6月27日に、91歳でお亡くなりになったマイケル・ボンド氏のご冥福をお祈りいたします。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビではないですが、漢字の8〜9割、おそらく、小学校1年2年で習うレベルのもの以外にはほぼ全てルビが振られていると思います。

文字の大きさ:比較的小さい。通常の大人向け文庫サイズとほぼ同等(か、若干大きい程度)。

所感:一部の漢字にはルビが振られていませんが、小学校2年生程度ならば十分に読める、本に慣れたお子さんであれば小学校1年生でもチャレンジできる、というレベルかと思います。ソフトカバーで、一般的な文庫よりもひとまわり大きい17cm×12.5cmサイズ。行間も広く、読みやすく、内容的にも、小学校低学年でも十分に理解できる内容です。イギリス、ロンドンの地名や寄宿学校の仕組みなどについて、保護者の方が補足の説明などして差し上げると、より読みやすくなるかと思います。

 

【本文書き出し】

”Ⅰ どうぞ このクマのめんどうをみてやってください

ブラウン夫妻が初めてパディントンに会ったのは、駅のプラットホームでした。それだからこそ、パディントンなどどいう、クマにしては珍しい名前がついたのです。つまり、パディントンというのが、その駅の名でした。

ブラウン夫妻は、その日、休暇でうちに帰って来る娘のジュディを迎えに、駅に来ていました。暑い夏の日で、駅は、海へ行く人でごったがえしていました。汽車は汽笛を鳴らす、タクシーは警笛を鳴らす、赤帽は人ごみをぬって走りながら、あっちとこっちでどなりあう・・・・・・それがみんないっしょになって、あたりはたいへんな騒がしさでした。ですから、ブラウンさんが、さいしょにパディントンに気がついてそういったときも、奥さんは、すぐには話がのみこめませんでした。

「クマが? パディントン駅に?」奥さんは、あきれてご主人を見つめました。「ばかなことおっしゃらないで、ヘンリー。そんなことあるものですか!」

ブラウンさんは、ちょっとめがねに手をやって、「そういうけれど、いるんだよ。」と、いいはりました。「ぼくは、ちゃんと見たんだ。ずっと向こう、ほら、あの郵便袋のかげだ。なんだかへんてこな帽子をかぶってたよ。」

そういうと、ブラウンさんは、返事を待たず、奥さんの腕をつかんでぐいぐい押しながら、人ごみをかきわけ、チョコレートとお茶を満載した手押し車の横をまわり、本や雑誌の売店のそばを通り抜け、山と積まれたスーツケースの間をぬって、奥さんを遺失物取扱所の方へ連れて行きました。

「ほうら、ごらん。」ブラウンさんは、暗いすみの方を指さしながら、勝ちほこったようにいいました。「ぼくのいったとおりじゃないか!」

奥さんは、ご主人の指さす方へ目をやりました。影になっているところに、ぼんやり、何かちいちゃな、ふわふわしたものが見えました。それは、スーツケースらしいものの上に腰をかけていて、首から何か書いた札をぶらさげていました。スーツケースは古くて、ひどくいたんでいて、横のところに『航海中入用手荷物』と書いてありました。

ブラウンさんの奥さんは、思わずご主人の腕をぎゅっとつかんでさけびました。

「まあ、ヘンリー!あなたのいうとおりだわ、やっぱり。ほんと、クマだわ!」

奥さんは、目をこらして、つくづくそのクマをながめました。何だか、とても珍しい種類のクマのようです。色は茶色。それも、どっちかといえば、きたない茶色で、ブラウンさんのいったとおり、広いつばのついた、何とも奇妙な帽子をかぶっていました。その広いつばの下から、二つの大きなまんまるい目が、じっと奥さんを見返していました。

何か自分に用があるらしいと見てとったクマは、立ち上がると、ていねいに帽子をとりました。黒い耳が二つ、ニョッキリ現れました……”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

福音館文庫「くまのパディントン」表紙_[0] 福音館文庫「くまのパディントン」本文1_[0] 福音館文庫「くまのパディントン」本文2_[0]

福音館文庫「くまのパディントン」本文3_[0] 福音館文庫「くまのパディントン」本文4_[0] 福音館文庫「くまのパディントン」本文5_[0]

 

【基本データ】

福音館文庫

2002年6月20日 初版発行

マイケル・ボンド 作  松岡 亨子 訳 ペギー・フォートナム 画「くまのパディントン」

ISBN4-8340-1802-4

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