【メモ】
・現実世界の変人 が紡ぎ出す「名言」。それをリリー・フランキー節でひたすら綴る。
・僕の日常生活には、こんな名言を発する人との接点は無い。初めてこの本を読んだときそう思った。そして爆笑しながら最後まで一気に読みきった。でも、今読み返してみると、人間誰しもこの様な名言を日常的に耳にしたり、場合によっては口にしたりしているのではないか?そんな気もする。初めて読んだ時から早10年あまりも経っているから、その間にした様々な経験がそう思わさせるのか、それともこの10年間で僕の周りの人や僕自身が何か変わってきたのか、僕自身がどこかおかしくなったのか…。
・下らない。でも面白い。リリー・フランキー先生のファンになったきっかけの本の一冊。
・笑いたいだけではなく、自分自身という人間や人生をボンヤリと考え直したい時に、一風変わった物差し替りになる一冊かも。
【本文書き出し】
(16ページ〜、2つ目の御言葉より)
”〔御言葉その2〕そこに居ないはずの男。
生活の習慣というモノは、なかなか変えがたい。ボクの場合、出掛ける時も寝る時も部屋に鍵をかける習慣がないのだが、これは考えてみると、たいそう物騒なことである。
分かっちゃいるが、面倒臭い。運良く泥棒に入られたこともないが、部屋に帰ったら玄関にゴミ袋が2つ捨てられていたことがある。盗まれたことはないが、増やされたりはした。鍵はかけねばイカン。危ない。知らないうちにゴミ集積所にされてしまう。
近頃は、そんなボクの友好的な習慣を逆手に取った積極的な編集者が、電話のアポをすっ飛ばして、夜中の3時に呼鈴も鳴らさぬままボクの枕元に立っていてビックリのあまり小便をもらしまくったことも少なくない。鍵はかけねばイカン。
特にこの御時世、猟奇殺人やノックアウト強盗や巨人連敗など、物騒な事件も多い。
鍵はかけねばイカン。ウチの雑居ビルにも危険人物が出入りしているらしく、エレベーターホールに「異常者が出没しています。御注意下さい。管理人」と書いた紙が貼ってある。でも、その字がデタラメにヘタな字で、その上、悲しくなるくらいの誤字脱字で書かれてあったので、そっちのほうが怖かった。
犯人は管理人である。たぶん。それを目撃したオバサンの話では、異常者は”全身黄色人間”だったらしい。それってもしかしたら、夜中に黄色いツナギのブルース・リー・ジャージでコンビニに行くボクのことかなとも思ったが、ボクは変質者であっても異常者ではないので、犯人は管理人である。たぶん。そうに違いない。
とにかく、重要なことは鍵をかけることである。それが、一瞬の外出でも、だ。
ベッドの上の感動家。
友人のOは昔から、一種独特な人間を吸引する体質だった。Oが今までに出会った異常者に関する話は、想像を絶するストーリーばかりである。毎日、夕方になるとバケツの中で飼っている鮒を見せに来る中年。早朝に泣きながらチリ紙をもらいに来る中学生。
どう考えても思いつかない現実の異常。虚構では醸し出せない事実ならではのバカさ加減がそこにはある。Oはずーっとそんなキワキワの人たちから好かれてしまう、オイシくも悲しい体質なのである。
ある日。もう26時を回った頃だったという。Oは近所のコンビニへ買い物に出掛けた。そして、家に戻るまで、その間10分。Oは油断していた。鍵をかけなかったのだ。
帰って来て部屋のドアを開けたOは、その様子に背筋が凍るような衝撃を受けたという。部屋が荒らされたワケでも、物が盗まれたでもなく、10分前と違う点はただ一点。その一点があまりにも斬新な一点だった。
Oのベッドの上に、見知らぬオヤジが座っていたのである。靴のまんまで、あぐらをかき、両手を膝の上にのせて、天井を仰いでいたのだという。
Oは身構えた。咄嗟に身の危険を感じた。そりゃそうだろう。かなり怖い絵である。ベッドの上のオヤジは灰色の作業服を着ていて、腕まくりした両手は真っ黒に日焼けし、それがサロン焼けではないことをOは瞬時に察した。「殺されるかもしれない!!」、Oは恐怖に震える。しかし、オヤジは帰ってきたOを前にしても微動だにせず、天を仰いでいる。
Oは意を決して、オヤジに言った。
「アンタ!!勝手に人の部屋に入り込んで、そこで、何してるんだ!!オイ!!オイ!!」
その言葉を受けたオヤジは、初めて身体を震わせながら天に向ってこう叫んだという。
「感動してるんだア!!」
感動していたのであった。人ん家で勝手に。
それを聞いても笑える精神状態でなかったOは「そんなの、よそでやってくれ!!」とオヤジに冷たく言った。するとオヤジは「分かった・・・・・・」と言い残し、部屋を去ったという。
Oはその事を述懐するに「何に感動していたのか、超気になる」と、今では後悔をしている。
“御言葉”その二
「感動してるんだァ!!」
(家宅不法侵入者、男・推定50歳)
〜そこに何があったのか?永遠の謎となった感動の御言葉〜”
【表紙及び冒頭5ページ】
【基本データ】
幻冬舎文庫
平成18年2月10日 初版発行
リリー・フランキー「増量・誰も知らない名言集 イラスト入り」
ISBN4-344-40760-1
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