星新一/作  加藤まさし/選『おーい でてこーい – ショートショート傑作選』

青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい」

【メモ】

・言わずと知れた「ショートショートの神様」、星新一氏の傑作選。すべての漢字にふりがなの振られた青い鳥文庫版です。

・こちらの「おーい でてこーい」は傑作選の第一弾。選りすぐりのショートショート14作品が収められています。第二弾として、「ひとつの装置」もあり、こちらも同じく、14作品収録です。

・昭和40年台後半生まれの僕が、初めて星新一を読んだのは、確か小学校2年生のときだったと思います。仲の良い本好きの友だちから「ボッコちゃん」(だったと思いますが)を貸してもらい、SF小説、そしてショートショートというものと出会い、「こんなおもしろい本があるのか」と、衝撃を受けたような記憶があります。当時読んでいたのは、当然のことながら、おとな向けの普通の新潮文庫版。比較的本が好きな小学生だったということもあり、「何とか読める」というような感じで読んでいたような記憶がありますが、はやり、一部の読めない漢字は飛ばして、そのあたりは「雰囲気」でつないで読んでいたような。こちらの青い鳥文庫版であれば、小学校低学年、2年生くらいからでも十分に読めるのではないかと思います。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビで、全ての漢字にふりがなが振られています。

文字の大きさ:比較的小さい。通常の大人向け文庫サイズとほぼ同等(か、若干大きい程度)。

所感:「さすが星新一氏」という感じのショートショートをよりすぐった傑作選。一話が短く、そしてなによりおもしろく。小学校低学年のお子さんに「本のおもしろさ」を伝えるための「最適な一冊」になってくれる本だと思います。

 

【表紙、目次及び冒頭3ページ】

講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」表紙_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」目次1_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」目次2_[0]

講談社青い鳥文庫 星新一「ひとつの装置 ショートショート傑作選2」表紙_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「ひとつの装置 ショートショート傑作選2」目次1_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「ひとつの装置 ショートショート傑作選2」目次2_[0]

講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」本文1_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」本文2_[0] 講談社青い鳥文庫 星新一「おーい でてこーい ショートショート傑作選」本文3_[0]

 

【基本データ】

青い鳥文庫

2001年3月15日 第一刷発行

星新一/作  加藤まさし/選 あきやまただし/絵「おーい でてこーい – ショートショート傑作選」

ISBN4-06-148552-0

”この本、読ませてみたいな”と思ったら 



赤川 次郎『三毛猫ホームズの探偵日記』

角川つばさ文庫 赤川 次郎『三毛猫ホームズの探偵日記』

【メモ】

・殺人事件など、一部おどろおどろしい話も出てきますが、準主役的存在の片山晴美、その飼い猫で、主猫公の名探偵三毛猫ホームズ、晴美の兄で、警視庁捜査一課の片山刑事、自称晴美の恋人の石津刑事の4人のメインキャラクターたちの、なんとも力の抜けた感じのやりとりのおかげで、ミステリーらしからぬ、ほんわかとした雰囲気を感じながら読むことができます。

・僕自身、学生時代(中学〜高校時代だったかと思います)に、赤川次郎氏の『三毛猫ホームズシリーズ』は、これでもか、というくらいに読んだ記憶があります。当時は大人向けの小説である角川文庫版しかありませんでしたので、読めてもせいぜい中学生から、といったところでしたが、小学校低学年からでも十分に読める、総ルビの振られたつばさ文庫版が出て、今の子どもたちは恵まれているなと思います。

※この本は、『三毛猫ホームズのびっくり箱』『三毛猫ホームズのクリスマス』(いずれも1988年角川文庫)の2冊に所収のストーリーの中から、「三毛猫ホームズの名演奏」「三毛猫ホームズの宝さがし」「三毛猫ホームズの通勤地獄」の3つの作品を選び出して1冊の本にしたものです。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビです。

文字の大きさ:比較的小さい。通常の大人向け文庫サイズよりも若干(1〜2pt)大きい程度。

所感:

・元となっている角川文庫の作品に、全ての漢字にふりがなを振って作られた本ですので、一部難しい漢字も出てきますが、頻度は「ごくまれ」といったところだと思います。もともとの本が平易で読みやすい表現の本ですので、小学校低学年、3年生程度からでも十分に読めると思います。

・どの話も、短めにまとめられたストーリーの中に、ユーモアと軽いひねりも交えつつ、嫌味や暗さはまったくといっていいほどなく、最初から最後まで気持ちよく読むことができます。これぞ赤川次郎といったところの、軽快で爽快感のある文体は、本格的な小説はこれが初めて、というような小学生のお子さんでも十分に楽しむことができるのではないかと。

 

【本文書き出し】

”1

なんとなくおかしい。

戸川清春は、リハーサルの間中、ずっとそう思っていた。—しかし、いったいどこがおかしいのだろう?

別に誰もミスしてはいない。アンサンブルも乱れはないし、音程も外れていない。

それでいて、どこかおかしいのだ。

「—はい、結構です。じゃ、第三楽章をもう少しさらっておきたいんですが」

と、戸川は言った。

普通、指揮者というのは、もう少し威張っているものだ。現に、戸川の師である、朝倉宗和など、必要なこと以外、一言も発しない。

しかし、それは朝倉が指揮界の長老だからであって、戸川のごとく、これが本格的なデビューという新人の場合、日本のオーケストラとして超一流のS響を相手にしては、下手にでるしか仕方ないのである。

しかし、意外だった。—S響はプライドが高く、若い指揮者が来ると、タクトを無視して演奏するとか、リハーサルに団員が半分も来ないとか—要するに「意地悪」をするのだ、と聞いていたのである。

実際、朝倉からも、

「まあ、新入社員が、余興に裸踊りでもやらされるんだと思って、我慢しろ」

と言われて来た。

それが、リハーサルは開始五分前に全員ピタリと揃うし、戸川の指示には一言の文句も言わずについてくる。私語も交わさず、技術はさすがに一流のプレーヤーばかりだから、実に気持ちよく、リハーサルは進んでいくのだ。

これでいいのかしら、と戸川が内心首をひねったとしても、不思議ではない。

第三楽章の、一番ポイントとなる部分を、二、三度通してやると、まず満足のいく出来になった。

予定の時間の半分くらいでリハーサルは終わった…”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」表紙_[0]角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」本文1_[0] 角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」本文2_[0]

角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」本文4_[0] 角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」本文4_[0] 角川つばさ文庫 赤川次郎「三毛猫ホームズの探偵日記」本文5_[0]

 

【基本データ】

角川つばさ文庫

2012年4月15日 初版発行

作・赤川 次郎 絵・椋本 夏夜『三毛猫ホームズの探偵日記』

ISBN978-4-04-631230-3

”この本、読ませてみたいな”と思ったら 



小山 勝清『彦一とんちばなし』

偕成社文庫 小山 勝清「彦一とんちばなし」

【メモ】

・彦一は、どんな相手でもとんちでやり込めてしまう。

・上巻本文242ページに52話収録。一話平均4〜5ページ。簡潔で読みやすいショートストーリーの中に、とんち、だじゃれ、笑いが盛り込まれている。しかし、どの話も、それだけではなく、知識と知恵、そして道徳も絡められた物語になっている。

・悪人を懲らしめる。さらにしっかりとやり込めて、仕返しすらできないようにしてしまう。決して正義漢ぶってるわけではないけれど、本人がしたいと思うこと、本人が正しいと思うことをすると、結果として相手をやり込めてしまう。

・しかしそのとんちは、人々が忘れたりなおざりにしたりしていた、物事の本来あるべき姿、真理のようなものに気が付かせてくれる。ひとびとはバツが悪そうに納得して、ホッとして、場が収まる(P66〜第17話「◯◯さま」 ーーー 調子に乗って夜遅くまで大騒ぎする、鼻息の荒い江戸っ子の商人たち。その商人たちに、「『本当に偉い人』がお泊りなので、お静かに願います」という手紙が届く。商人たちはおとなしくなる。翌日種明かしをされた商人たちは、してやられたと思いつつも、『本当に偉い人』が誰なのかに気がつかされ、なるほどと頭をかいて引き下がる)。

・彦一はずるくない。賢くて、一部には確かにずる賢いような描写もあるが、本質的には、正義を愛する正直な男。そして、人を思いやることのできる、やさしい男(P77〜第20話「おもいやり」 ーーー 村一番の孝行者、働き者の男が、過ちから、山火事を起こしてしまう。小心者のその男は、正直に名乗り出ることができない。彦一はその男のことを考え、その男が自然と名乗り出ることができるようにとんちを働かせる)。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビではないですが、漢字の8〜9割、おそらく、小学校1年2年で習うレベルのもの以外にはほぼ全てルビが振られていると思います。

文字の大きさ:比較的小さい。通常の大人向け文庫サイズよりも若干(1〜2pt)大きい程度。

所感:

・ソフトカバーのB6判で行間も広く読みやすく、内容的にも、とんち話ですので、小学校低学年でも十分に理解できる内容です。

・一部の漢字にはルビが振られていませんが、小学校2〜3年生程度ならば十分に読める、というレベルかと思います。

・ただし、一部の言葉や地名などで少し難しいものや珍しいものがたまに出てきます(難題、療治、献上、胴巻き、球磨川、阿蘇、鶴崎、など)。これらには当然ふりがなが振られていますが、ふりがな付きでも小学校低学年だとちょっと厳しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

・逆に、いろいろな話のなかで出て来る人情の機微に触れるような人間同士のやりとり、人のこころの動きなどの面まで含めて考えると、小学校高学年どころか、おとなでも十分に楽しめる、そういった内容の本だと思います。

 

【本文書き出し】

” 第1話 こぶとり

むかし、肥後の国(いまの熊本県)の八代という町のちかくに、彦一という、それはそれは、きばつなちえをもっている子どもがすんでいました。かれは目がくるくるで、おぼんのようにまるい顔、どんな難題でも、たちどころにといて、よわきをたすけ悪人をこらし、おまけにどっとわらわせる世界一のちえ男でした。ではいまからその彦一のとんちばなしをいたしましょう。

 

あごの下に、大きなこぶをもったおじいさんがありました。そのこぶは、ほうっておいてもいのちにかかわるこぶではなかったが、しゃれもののおじいさんは、そのこぶをなおそうと、ほうぼうのおいしゃさんにかかりました。が、こぶはいっこうになおらず、くすり代がかさんで、家はだんだんまずしくなりました。しかしおじいさんは、まだあきらめきれず、このうえは、のこっている家やしきを売り払い、江戸(いまの東京)にのぼって名医にかかろうとおもいました。

これをしった、むすこの太郎兵衛は、おどろいて彦一の家にかけつけました。そして、「なんとかして、うちのじいさまに、こぶの治療をあきらめさせる法はないものか。」とそうだんしました。彦一はにっこりわらっていいました……”

 

【表紙及び冒頭5ページ】

偕成社文庫「彦一とんちばなし」表紙_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文1_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文2_[0]

偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文3_[0] 偕成社文庫「彦一とんちばなし」本文4_[0]

 

【基本データ】

偕成社文庫

1977年5月20日 1刷

著者 小山 勝清「彦一とんちばなし(上)」

ISBN978-4-03-550400-9

”この本、読ませてみたいな”と思ったら