監修:小澤俊夫 再話:小沢昔ばなし大学再話研究会 絵:二俣英五郎『吉四六さん』

小峰書店 小澤俊夫『吉四六さん』

【メモ】

・とんちもあれば、ダジャレ、ものすごくシンプルなギャグもある。あまり肩肘張らずに、軽く読んでいける感じ。

・やはりおもしろいのはとんちばなし。描写が細かく、話もよく練られている。しかし、ギャク系もなかなか。たとえば「けちんぼ」という話はこんな話。— ”むかしあるところに、けちんぼとけちんぼが隣りあわせに住んでいた。ある日、かたっぽのけちんぼが、はしごが必要になり、下男に、もうひとりのけちんぼに、はしごを借りに行かせた。しかし、もうひとりのけちんぼは断る。すると、はしごを借りに行かせたけちんぼはこう言う。「なにっ、あのけちんぼめ。そんならしかたがない。◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯(さすがにオチは伏せ字にさせていただきました)」” — わずか10行1ページ足らずの短い文章の中に、シンプルにまとめられた、このおもしろさ。

・こういう昔の話を読む際(お子さんに読ませる際)には、古い単位についての知識を補足しておくと、さまざまなものを具体的なイメージがしやすく、よりスムーズに物語が楽しめるように思う。例えば、「一両は小判が一枚。江戸時代の一両は、現在の貨幣価値で10万円前後」「一石とは、十斗=百升で約150kg(容積にして180リットル程度)。俵にすると2.5俵。小判1枚で購入できる、つまり、現在の貨幣価値で10万円程度。例えば、”10万石の大名”といえば、現在の価値で100億円の収入のある大名(ただし、家臣の収める土地も含めて、お家全体での話)ということになる」「また、一石とは、当時の人間1人が1年間に食べる米の量とおおよそ等しかったといわれている。侍を1人動員するためには、年間30〜40石が必要とされたという話なので(米以外の食料や、衣類や住居、家族や使用人などにかかる費用含めてこの程度は必要という話)、”10万石の大名”であれば、3,000〜4,000人の侍を動員することのできる大名ということになる」など。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビではありませんが、かなりの漢字(恐らく、小学校低1〜3年生で習う程度の漢字以外)にはふりがなが振られています。

文字の大きさ:小さい。おとな向け文庫サイズと同等か、1-2ポイント程度大きいサイズ。

所感:ふりがなは小学校低学年でも読めるレベルまで振られています。そういった意味では、「小学校低学年からでも十分に読める本」といえると思います。その一方、内容的には、当然小さなお子さんでも理解できるような内容でありながらも、思わず考えさせられてしまうような内容もあり、小学校低学年〜中高生、おとなでも十分に楽しめる内容になっているかと思います(これは、「彦一とんちばなし」にも共通して言えることですが、日本の昔ばなしには、昔の人の知恵や教訓、道徳心など、時代を越えて語り継いでいくべき内容が多く含まれているのではないかと改めて感じさせられます)。

 

【表紙及び冒頭5ページ】

小峰書店「吉四六さん」表紙_[0] 小峰書店「吉四六さん」本文1_[0] 小峰書店「吉四六さん」本文2_[0]

小峰書店「吉四六さん」本文3_[0] 小峰書店「吉四六さん」本文4_[0] 小峰書店「吉四六さん」本文5_[0]

 

【本文書き出し】

” 吉四六さんの生き絵

ある晩、ひとりの旅人が、吉四六さんの家にやってきて、今晩の宿をたのみたいといいました。吉四六さんが、

「あなたは何をする人ですか」ときくと、旅人は、

「わしは絵師じゃ。これから、江戸へでていこうと思っている」と、こたえました。

「それならお泊りください」といって、吉四六さんは、絵師にごちそうをふるまい、泊めてやりました、絵師が宿代をきくと、吉四六さんは、

「わしゃあ、宿代などいりません。そのかわり、絵を描いてくれませんか」といいました。

「もちろん描こう。だがどんな絵がいいのかな」

すると、吉四六さんは、

「雨降りに傘をさして歩く人の絵と、同じ人が天気のいい日に傘をたたんで歩く絵を描いてください」といいました……”

 

【基本データ】

小峰書店

二〇一一年 三月 三日 第一刷発行

監修:小澤俊夫 再話:小沢昔ばなし大学再話研究会 絵:二俣英五郎『吉四六さん』

ISBN978-4-338-25806-7

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宗田 理・作 はしもとしん・絵『ぼくらの七日間戦争』

角川つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」

【メモ】

・いまから30年以上も前、1985年に発行され、以後30年以上も多くの人に読まれている大ベストセラー小説。小説はその後シリーズ化もされていますが、映画化もされた1作目の本作は、さすがといった感じのおもしろさ。

・ひとりひとり異なるいろいろな不安や不満をかかえる中学1年生。その心の動きもよく描かれている一方で、さまざまなアイディアを練り、おとなたちと真っ向から対決する少年たちの姿を描いた痛快なストーリとしても楽しめます。

・1985年というと、昭和40年台後半生まれの僕はちょうど小学校高学年〜中学生といったところ。当時世間はバブル経済突入目前、世の中がどんどんおかしくなっていく一方で、団塊ジュニア世代と言われたこのころの小中学生は、非行問題やいじめ、過酷な受験戦争など、社会のストレスが濃縮されて、そのまま子どもたちの世界に「おり」のように溜まった、そんなものに日々触れながら生きていたように思います。いまの子どもたちのおかれた環境とはずいぶんちがうのかな、とも思う一方、いまの子どもたちが読んでも十分に楽しめる、時代をこえて楽しめるお話だと思います。

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビで、全ての漢字にふりがなが振られています。

文字の大きさ:小さい。おとな向け文庫サイズと同等サイズ。

所感:つばさ文庫として想定している対象年齢は「小学上級から」。文字のサイズ、内容(中学生が主人公のお話ですので、思春期系の話もそれなりに出てきます)なども含めて考えると、小学校5年生〜6年生あたりをメインのターゲットとした本だと思います。が、読書好きの小3の息子は、結構長いこのお話、わずか数日で読破してしまい、数日後には、同シリーズの「ぼくらの怪盗戦争」と「ぼくらと七人の盗賊たち」を買ってきて、そちらもむさぼるように読んでいました。人によるとは思いますが、小3〜小4程度でも十分に読むことのできる本だと思います。

 

【表紙及び冒頭5ページ】

つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」表紙_[0]つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」本文1_[0] つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」本文2_[0]

つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」本文3_[0] つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」本文4_[0] つばさ文庫 宗田 理「ぼくらの七日間戦争」本文5_[0]

 

【本文書き出し】

”一日 宣戦布告

 

1

掛け時計の長針と短針が重なった。

正午。

さっきからそれを見つめていた菊地詩乃は、あらためて大きな溜息をついた。

予定の帰宅時間から一時間もおくれている。最初の苛立ちが、いつの間にか不安にすり変わっていた。何かあったのだどうか?

—交通事故?

まさか。学校からの帰り道に交通事故なんて、起きると考える方がどうかしている。

成績がわるくて、学校に残されたのだろうか?

一人息子の英治は中学一年。きょうは一学期の終業式である。いくらおそくても、十一時には帰れるはずだ。

そうしたら、十一時半に英治をアウディ80に乗せて家を出発。十二時十分に、池袋のサンシャインビルの前で夫の英介を拾う。

英介の会社はサンシャインビルにあるのだが、きょうの午後から休みをとり、日曜日までの三日間、軽井沢で親子三人テニスをやったり、高原のドライブをしたりしようという計画である。

計画を立てたのは……”

 

【基本データ】

角川つばさ文庫

2009年3月3日 初版発行

宗田 理・作 はしもとしん・絵「ぼくらの七日間戦争」

ISBN978-4-04ー631003-3

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作 星新一  画 和田誠『きまぐれロボット』

フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」表紙

【メモ】

・こちらも星新一氏のショートショート集の子ども向けの版。ただしこちらは、以前にご紹介した青い鳥文庫からのものではなく、フォア文庫から出版されているもの。31編収録。

・内容的には、過去から多数出版されている新潮文庫版の小説と全く変わらず、全ての漢字にふりがなが振られたもの(青い鳥文庫版の傑作選も、同じく、全ての漢字にふりがなが振られています)。

・青い鳥文庫版が、230〜250ページ程度で14編収録、1編平均16〜18ページ弱(話ごとにばらつきがありますので、実際には1編あたり10ページ台前半から20ページ弱、という感じでしょうか)なのに対して、こちらのフォア文庫版は、200ページ弱の中に31編収録、1編平均6.5ページという計算になります。また、文字のサイズとしても、青い鳥文庫よりもフォア文庫のほうが若干大きく、こういった点から考えるに、こちらのフォア文庫版のほうが、「より短く、より手軽に読める話」を多数収録していると言えるのではないかと思います。

(上が青い鳥文庫版「おーい でてこーい」、下がフォア文庫版「きまぐれロボット」です)

青い鳥文庫版とフォア文庫版の星新一の文字の大きさ比較_[0]

フォア文庫版のほうが1〜2ポイント程度フォントが大きく、より「子ども向け文庫らしい」装丁になっています。

(青い鳥文庫版 1ページあたり、1行40文字×14行=560文字)

(フォア文庫版 1ページあたり、1行37文字×12行=444文字)

 

【子どもの読書に関わるデータ】

ふりがなの状況:総ルビで、全ての漢字にふりがなが振られています。

文字の大きさ:比較的大きい。文庫サイズとしてはほぼ最大サイズ。

所感:「(SF)小説のおもしろさ」を知る最初の一冊として、最適な選択肢の1つ。文字の大きさ、1編の短さ、どれをとっても、まずはこのフォア文庫版から初めてみるのがよろしいのではないでしょうか。

 

【表紙、目次及び冒頭5ページ】

フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」表紙_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」目次1_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」目次2_[0]

フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」目次3_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」本文1_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」本文2_[0]

フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」本文3_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」本文4_[0] フォア文庫 星新一「きまぐれロボット」本文5_[0]

 

【基本データ】

青い鳥文庫

2005年6月 第1刷発行

作 星新一  画 和田誠「きまぐれロボット」

ISBN978-4-652ー07467-1

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